悪質化、犯罪化する巡回販売

ようやく始まった環境省による廃品回収業者指導

 平成22年11月、ようやく環境省が、近年、詐欺や恐喝行為により社会問題化している廃品回収業者に対して対策を行い始めた。以下は、11月15日付けの時事通信の記事。

不用品回収業者に立ち入り検査を 自治体の積極的な関与促す -環境省

 環境省は14日までに、家電製品など使用済み物品の無料での回収をうたいながら料金を請求したり、不法投棄を行ったりする、不用品回収業者によるトラブルが社会問題化していることを受け、都道府県や市町村に対して、廃棄物処理法に基づいて回収業者に積極的に立ち入り検査などを行うよう促す通知を出した。自治体の関与を強めて、適切な廃棄物処理対策を促すのが狙い。

 不用品回収業者の中には、「廃棄物」ではなく、取引価値がある「有価物」を取り扱っているため、同法の適用対象ではないと主張する業者もいる。しかし、住民とトラブルを起こしているような業者は、「無料」を掲げながら、住民が廃家電などを引き渡すと、料金を請求するような場合が多い。先日、宮城、愛媛など4県警から摘発された業者も、そうしたケースだった。

 同法は、廃棄物だけでなく、「廃棄物の疑いのある物」を取り扱う業者から報告を求めたり、立ち入り検査を行ったりできると規定。このため、通知は、業者が無料で引き取るか、業者側が住民に代金を支払っているような場合でも、廃棄物の疑いがあれば、報告要請や立ち入り検査を行うよう求めた。

(時事通信 2010年11月15日)

 この環境省の通達が発表されるその直前の11月10日に、宮城、埼玉、千葉、愛媛4県警の合同捜査本部が、無許可で有料回収を行っていた大手廃品回収業者を廃棄物処理法違反(無許可営業)容疑で逮捕している。この業者に対しては、特定商取引法違反(威迫・困惑など)容疑の立件も視野に入れられている。
 今回、廃品回収業者の取締りに対して4県警の合同捜査本部が設置されてまで捜索が行われた背景には、廃品回収業者による高額請求や恐喝事件が多発しているという状況があるようだ。

 この環境省の通達は、このような廃品回収業者による被害が拡大していることを受けて発表された。

続発する巡回販売による悪質商法

 今回逮捕された企業に限らず、廃品回収業者による詐欺、恐喝の事件は近年増加傾向にある。手口は年々巧妙化、悪質化していて、狙われているのは殆どが、高齢者や主婦など恫喝しやすい弱い立場の人々だ。
 断った客を恫喝し、高額なキャンセル料を支払わせたり、頼んでいないものを勝手に積み込み、料金を請求するなどの手口が横行している。

 特に問題となっているのが「先積み」と呼ばれる手口で、荷物を先に積み込み、その後に、事前に知らせておいた見積もりの金額よりも高額な料金を請求するというものだ。無料と謳っておいて荷物を積み込んだあとに高額な料金を請求する場合もある。
 業者側は、追加料金が発生する理由を後からいくらでも適当にでっち上げていく。そして高額請求に驚いた利用者が断ればまた、恫喝の末、キャンセル料を請求するといった手法だ。

 数年前からこのような事件が全国で多発して、ようやく環境省が都道府県の関係部局に通達を行った。しかし、あまりに遅すぎる対策という感が否めない。また、今回の通達は、各都道府県に企業の監督、監視を促すだけのもので本当に根本的な対策を行おうとしているのか極めて疑わしい。

 不特定地域を巡回して回る営業形態そのものを見直さなくては、このような詐欺、恐喝被害をなくせるはずがない。類似の詐欺、恐喝被害は、廃品回収業者に限らず、ありとあらゆる巡回販売において起きている。

 平成19年に逮捕された竿竹の巡回販売業者は、「竿竹2本で1000円」という価格を拡声機で喚き散らしながら住宅街を巡回し、客が呼び止めるとその後、客が頼む頼まないに関わらず、ステンレス製の棹を切り取り、数万という金額を提示していた。金額に驚いた客が断ると、業者側は、「ステンレス製は高い、切ったものはキャンセルできない」と恫喝し、高額料金を支払わせていた。被害者の中には、27万という高額料金を支払わされたケースもあった。このような手口は、竿竹詐欺あるいは、竿竹商法と呼ばれている。

参考
竿竹商法 – Wikipedia

 そのほか、食料品関係では、表示偽装や粗悪品販売が横行している。巡回販売のため消費者が購入後に問題に気付いた時には、業者の連絡先が分からなくなっている場合が多い。そのため、一般の小売店よりも表示偽装や粗悪品の販売が横行しやすいのだ。
 賞味期限切れの豆腐や乳製品を売る業者や産地を全く表示しない青果物を扱う業者、製造場所を偽装した餃子やパンなど加工食品を販売する業者など、巡回販売に関する国民生活センターへの問い合わせや被害報告は後を絶たない。

地域に責任を持たない巡回販売

 このような詐欺、恐喝、偽装に共通しているのは、すべて不特定地域を巡回して販売・営業を行っている巡回業者によって引き起こされているという点だ。住宅地域、商業地域を問わず、大音量の拡声機を使って宣伝し、軽トラックやワゴン車などで不特定の地域を回って販売する。こうした営業形態が、業者による違法行為の温床になっていくのは火を見るより明らかだ。
 まず、消費者は、業者の連絡先を掴む事ができない。商品の購入後、あるいはサービスの利用直後には、利用者は業者の行方が全く分からなくなっている。そのため、購入後に返品をしようと思ってもクーリングオフを行うことができない。欠陥商品による被害や食品関係による食中毒など、商品やサービスに問題が起こった際は特に、業者の居場所・連絡先が分からないというのは、利用者にとって非常に不利になる。

 被害がよほど深刻でない限り、警察が本格的な捜査を行うことは、あまり期待できない。業者側は行政による規制や警察による取締りが日本では極めて緩いことをよく理解している。被害が深刻でもない限り、大半の利用者が泣き寝入りするであろうことも、はじめから見込んでのうのうと商売を行っているのだ。

 そして、巡回販売が悪質な業者の温床となってしまう最大の要因が、販売地域に対して責任を持たないというその営業形態そのものにある。
 巡回販売において不当な高額請求が多発する背景に、巡回という販売形態のため、二度と同じ顧客と顔を合わせる心配がない、という業者側の心理が働いている。店舗を構えた一般的な小売店とは違い、地域の評判や意見、つきあいを気にする必要が一切ない。利用者との間に何か問題が発生しても、次の日には、別の地域に移ってしまえばいいだけの話だ。巡回販売は、業者の無責任な体質が生まれやすいと言える。
 実際、多くの巡回販売業者は、自社や自宅がある地域ではなく、遠方の地域で営業を行っている。現在、私の住んでいる中野区では、殆どの廃品回収業者が横浜ナンバーのトラックで営業を行っている(次に多いのが、品川と多摩ナンバーだ)。当該自治体の営業許可を取っていない明らかな無許可営業だ。こうした企業は、顔の知られた地元ではできないことを他の地域へ来て、のうのうと平気な顔で行っている。

 問題は、結局、巡回販売というその営業形態にある。巡回販売による詐欺、恐喝被害は、近年不況下の中で著しく増加したが、この手の犯罪そのものは、何十年と前から存在したものだ。そして、地方自治体などの行政は、毎回、被害者が出て、相談件数が増加してからようやく対応してきた。それも特に悪質な一部業者に対して行政指導等の対策を行っているだけだ。そのため多くの巡回販売を行う零細の個人業者などは、問題があっても罪に問われぬまま営業を続けている。実際の被害状況は、公式の発表よりも、もっと多いと思われる。
 巡回販売という営業形態が、悪徳業者の温床になりやすいということが明らかであり、また実際に、多くの被害者を毎年毎年、出しているというにもかかわらず、行政も、議会も取り締まりや規制を設けようとしてこなかった。その結果が、不況下での悪質な業者の増加と、それに伴った被害者の増加だ。行政、議会の無為無策が、被害の拡大を招いている。

 巡回販売に対する規制強化を真剣に検討する時期に来ているのではないだろうか。巡回販売そのものを原則禁止、許可する場合もそれ相応の公共的理由を業者側に求めるべきだ。近隣住民の迷惑省みず、拡声機で怒鳴り散らして、消費者にとって安全性を確かめることのできない商品やサービスを売りつけている巡回販売という形態は、時代錯誤以外の何物でもない。このような非常識な営業形態が許されている国など日本以外に寡聞にして知らない。巡回販売は、正に日本の民度の低さの表れ以外の何物でもないだろう。

(2010/11/20)